15.浜松町・辰金の真子鰈釣り

1979年頃からの話

 

会社で船を仕立て白鱚釣り、自然にそのまま白鱚の乗合船で通い始めた船宿【浜松町・辰金】無口で大人しい店主がいつもゴカイや青イソメ餌の面倒を見る。女将さんはチャキチャキの江戸っ子風でお客の対応、船長は息子兄弟で 秋からは春先にかけては人気の鰈釣りで『東海場』と『木更津沖』と二艘出る。顔なじみになると浜松町駅からの送迎バスの中で『今日はどっち』型ねらいよりも数釣りの『木更津』を選択する方が多かった。楽しみの一つが早朝、缶に薪をくべ囲んで暖を取りながらの釣り談義、キャプテン帽をかぶった名人にはあれこれと質問をした。それは船の中まで続いた。特に小突いて聞き上げる釣り方等嫌がらず教えてくれた。名人はいつも左舷ミヨシよりに、私は船長室近く左舷胴の間に席を取り、船長に色々教わったり話をするのが楽しみだった。当時はこんにちのように錨を入れてどうぞのタイムリー釣りではなく流し釣りで船下ねらい、すいている時は竿3本で真ん中は短竿で小突き釣りでハリス分ほど聞いてくると途中でコツコツと魚信、糸を送り込んで今度は魚信を確認しながら聞き合わせる。この釣りが実に面白くすっかりハマッてしまいました。ある時一人の御老人に興味を持った。何処かの御隠居さんといった感じで出船間近かにタクシーで駆け付け女将さんに手を取っ手もらいおぼつかない足どりで歩き、開けたミヨシよりの席にやっと乗り込み出航。釣り場に着き各自思い思いに釣り始める。ボチボチの出だしで釣果を重ねる内に何となく周りを見渡すと先ほどの老人、無言のまま目立たず良いペースで釣り続けている。しかも釣り姿は背筋がピンと伸び竿さばきは腕が竿と一体になり実に見事で『華麗(カレイ)な釣り姿』である。帰港後女将さんが手を貸しながら『どうだった』と声をかけると『ボチボチ』とタクシーへ。歳を取ってもこんな粋な釣りが出来たらいいな。
【浜松町・辰金】は時代とともに乗合船から仕立船へ仕立て船から屋形船へ

 

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